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米国スタートアップに対するCVC投資:前編

January 20, 2023

日本ベンチャーキャピタル協会の会員数は、この10年間で4倍以上に増加しました。最近の報告書によると、この成長の背景には投資ストラクチャーの多様化があるとされています。その現れとして、独立系ベンチャーキャピタル(VC)が日本で台頭し、「スタートアップのエコシステムが成熟した証」 と見られています。

この拡大傾向の背景として、VC投資の増加がスタートアップ企業の成功を促し、それによってVCの収益が向上し、それがより多額の資金及び優秀な人材を引き寄せるという好循環があります。この好循環がVC投資をさらに加速させています。  

投資ストラクチャー

CVC投資においては、以下の3つの投資ストラクチャーが考えられます。

  • 日本からの直接投資: ファンド組成の手間はかかりませんが、日本の投資家が米国での紛争(特にスタートアップ関連の紛争)に直接巻き込まれるリスクがあります。
  • 米国コーポレートファンドを利用した投資: 米国コーポレートファンドを利用することにより、日本の投資家が米国での紛争に直接巻き込まれるリスクは軽減することはできますが、一方で、米国の税法上ファンドが法人として扱われるため、米国ファンドが投資先から受領する配当について、連邦法人税の対象となります。
  • 米国LPファンドを利用した投資: 米国LPファンドを利用することにより、日本の投資家が米国での紛争に直接巻き込まれるリスクを軽減しつつ、パススルー課税によるメリットを享受することができます。LPファンドは米国の税法上パートナーシップとして扱われ、投資先から受領する配当に対して連邦法人税の対象となりません。

ファンド組成に係る手続

日本において必要となる手続としては、まずブロッカーエンティティの設立が想定され、ブロッカーエンティティを置くことにより、日本の投資家を米国における課税及び監査のリスクから遮断し、米国投資に関連する責任追及のリスクをさらに軽減することができます。

次に、適格機関投資家の届出及び適格機関投資家等特例業務の届出が必要となりますが、これらは、LP契約及び引受契約の締結前に完了する必要があります。

米国におけるエンティティの設立や組成は、デラウェア州が好まれています。デラウェア州会社法は米国におけるビジネスの最新動向を反映しており、役員の個人責任の限定や保証に関する規定がおかれているため、優れた人材を確保しやすくなっています。デラウェア州にはCourt of Chanceryという会社実務に特化した裁判所があり、職業裁判官による紛争解決や多数の判例の蓄積により、ビジネスの予測可能性が高いというメリットもあります。  

また、米国の上場会社の半数以上、フォーチュン500の60%以上がデラウェア法人であるため、デラウェア法人は高い名声及び評判を有しています。実務の面では、デラウェア州は他の州と比較して当局による手続の処理が迅速です。プライバシーの観点からは、デラウェア州における届出や登録において個人を特定する情報を記載しなければならない箇所が少ないため、個人責任のリスクを軽減することができます。

ファンド組成手続に関する重要点

  • 日本において、リミテッドパートナーシップ契約及び引受契約の締結前に、適格機関投資家の届出及び適格機関投資家等特例許可業務の届出を完了する必要があります。
  • 米国のファンドマネージャー及びLPファンドの組成は、デラウェア州が好まれています。
  • ファンド組成に関するコーポレート関連の届出のほか、商務省経済分析局(BEA)に対する届出や米国証券法に基づく届出についても検討する必要があります。

更に詳しく

CVC 投資ファンドに関する更に詳しい内容については、モルガン・ルイス主催のウェビナー「米国スタートアップ企業へのコーポレート・ベンチャーキャピタル 投資 (前編): ファンド組成と投資ストラクチャー (日本語講演)」をご覧ください。本講演は2023 年ウェビナーシリーズの1つとして、日本企業やファンドを対象に、ファンドストラクチャーを利用した米国スタートアップに対する投資に関する新たなビジネスモデルの展開について概説しております。

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