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ライフサイエンス業界へのCVC投資におけるIPに関する主な考慮事項

April 25, 2023

日本のコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)によるライフサイエンス業界への投資は、ライフサイエンスにおけるイノベーティブな製品やサービスの開発・発展を支援することによりリターンを得ることを目指します。このような投資活動においては、投資対象のベンチャー企業が有するイノベーティブな製品やサービスの「独占」的な価値について、競合他社からどの程度保護されているかという観点から調査することが重要です。

本シリーズの第1回では、CVC投資家のための投資ストラクチャーとファンド組成の際の検討要素について解説しました。第2回では、ガバナンス、出口戦略、国家安全保障に関する主要な用語や取引条件、潜在的な課題を克服するためのベストプラクティスについて検討しました。今回(第3回)は、CVCの投資家にとって重要な知的財産権(IP)に関する問題や取引に関するIPデューデリジェンスの重要性について、検討しました。以下に、第3回で検討した事項の要点をまとめました。

ベンチャー投資と知的財産権

知的財産権は、特許や商標、著作権等の形で企業の固有技術やブランド価値を保護し、競合他社が製品やサービス、技術等を模倣することを防ぐ権利です。ベンチャー企業においては、知的財産権が企業価値を左右することが多いため、ベンチャー企業やベンチャー投資家は、知的財産権を非常に重要視します。CVC投資家は、投資価値を検討するに際してのIPデューデリジェンスにおいて、以下のステップを踏むことが重要です。

  • 「パテント・ランドスケープ 」の実行 ― 第三者の特許を調査・検討し、競合他社の多い領域や問題となり得る特許技術を特定します。これには、投資対象企業の製品発売・サービス提供開始が第三者の権利を侵害するリスクの有無を確認するための、第三者の特許や公開出願についてのFTO調査(Freedom-to-Operate、侵害予防調査)が含まれます。投資家は、投資対象企業が、第三者の権利侵害の有無や投資対象企業の有する特許の無効可能性について分析し、法的見解(鑑定書)を得ているか否かを確認することもできます。
  • 「パテント・ポートフォリオ」の質のチェック ― 発明が特許可能か否か、特許出願の過程において適切な対応が行われたか否か、目的達成のために十分な情報が提供されたか否か等の事項を評価します。優れた特許は、無効審判において無効とされることはありません。なお、一般に、特許請求項の数が多ければ、無効とされない可能性も高くなるため、特許請求項の数を確認することも重要です。
  • 所有権又はライセンス権の確認 ― 知的財産権を有していることを立証するために必要な書類が適切に作成、締結、記録されているか否か、雇用契約上、従業員に権利が留保されていないか等を確認します。知的財産の実施ライセンスを受けている場合は、ライセンスが独占的か非独占的か、ライセンス許諾対象の領域はどこか、出願の権利が付与されているか否か、サブライセンス権が付与されているか否か等を確認する必要があります。
  • 営業秘密の保護 ― 営業秘密を特定し、適切な措置を講じることにより、価値のある情報が社外に流出するのを防ぐことができます。例えば、資料に「機密保持」というラベルを付けること等を積極的に行う必要があります。但し、「機密保持」のラベルを濫用すると逆効果になることもあることにも留意が必要です。
  • 第三者との契約の確認 ― 製品やサービスの開発のために締結される第三者との間の契約には、ライセンス契約、研究開発契約、秘密保持契約、共同研究開発契約、コンサルティング契約、原材料調達契約等、様々な種類のものがあります。このような契約において、第三者との間でどのような情報・技術がやり取りされるのか、対象となる情報・技術がどのように利用され、保護されるのか等を確認することが重要です。

不十分なデューデリジェンスによるリスク

有効かつ適切な知的財産権で保護されていないベンチャー企業には、その取り扱う製品やサービスについて独占的利益を得ることができるか否かに関する知的財産紛争に巻き込まれる高いリスクがあります。このようなリスクを考えると、ベンチャー投資家としては、CVC投資に際して、知的財産紛争の潜在的なリスクとベネフィットを特定・評価し、リスクに対する戦略を構築しておくことが非常に重要となります。

IPデューデリジェンスのポイント

  • FTO調査は、潜在的な投資対象企業が、その技術を特許侵害のリスクなく使用することができるかどうかを確認するために必須です。
  • 訴訟経験のある特許弁護士が、潜在的な投資対象企業の特許ポートフォリオの質を評価することも重要です。
  • 知的財産の所有権・実施権の有無・内容の確認、営業秘密の保護措置、第三者との契約内容の確認等も重要です。

詳細は、日本コーポレート・ベンチャーキャピタル投資シリーズ第3回「 ライフサイエンス業界へのCVC投資:重要な知的財産の取扱い及び知的財産のデューデリジェンス」のプレゼンテーション資料および録画をご覧ください(日本語で解説)。本イベントは、米国のスタートアップ企業への投資を通じて新しいビジネスモデルを開発する日本企業やファンドを対象としたウェビナーシリーズの一環です。

本シリーズ及び本イベントについてご質問等ございましたら、磯野愛 まで何なりとお問い合わせください。