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クライアント・アラート - 空売り規制の改正について

September 25, 2013

2013年8月26日、金融庁は空売りに関する改正施行令・内閣府令等を公布しました。当該改正は2013年11月5日から施行されます。

本クライアント・アラートでは、当該改正の主要な変更点を概説します。

1.PTS(私設取引システム)における空売りも規制の対象に

現行の空売り規制は、金融商品取引所 における空売りのみを規制していますが、改正後は、PTS における空売りも規制の対象となります。具体的には、①Naked Short Sellingの禁止、②空売りの明示・確認義務、③価格規制 、④空売りポジションの報告・公表義務、⑤公募増資に関連する空売り規制がPTS取引にも適用されることになります。

2.価格規制の変更(トリガー方式へ)

現在、常時、全ての空売りに適用されている価格規制にも改正が加えられました。まず、1つの金融商品取引所のみに上場されている有価証券については、前日の終値比で10%以上下落した時点で、翌取引日の終了時点までの価格規制が発動されることになります。

重複上場銘柄については、どの金融商品取引所で上記トリガーが発動したかにより、価格規制の適用が異なります。

価格規制のトリガーが「主たる金融商品取引所 」で発動した場合、①当該主たる金融商品取引所においては、当該取引日(トリガー発動から取引終了時まで)及び翌取引日について価格規制が適用され、②主たる金融商品取引所以外では、翌取引日(取引開始から取引終了まで)のみ価格規制が適用されます(主たる金融商品取引所でトリガーが発動した取引日には適用なし)。

一方、トリガーが主たる金融商品取引所以外の金融商品取引所で発動した場合には、当該金融商品取引所において、当該取引日(トリガー発動から取引終了時まで)について価格規制が適用されますが、(主たる金融商品取引所を含む)その他の金融商品取引所には適用されません。

なお、ある有価証券について価格規制が発動された場合、実務上は該当する金融商品取引所がその旨を公表することになるようです(公表方法等は未定)。

3.空売りポジションの報告・公表義務にかかる変更

上場有価証券にかかる空売りポジションの報告を義務付ける規制(「報告義務」)にも、数々の変更が加えられました。以下はその概要です。

   現行  改正後
有効期間  時限的措置
(最近は6か月毎の延長)
 恒久化へ5
 適用範囲  金融商品取引所における空売り  金融商品取引所又はPTSにおける空売り
 報告水準

 水準:0.25%以上 6
空売りを行った者は、証券会社に対し空売りポジションの情報を提供し、当該情報が金融商品取引所のウェブサイトにおいて公表される

 

 (二段階式)

水準1:  0.2%以上0.5%未満
空売りを行った者は、証券会社に対し空売りポジションの情報を提供しなければならないが、公表はされない

水準2:  0.5%以上
空売りを行った者は、証券会社に対し空売りポジションの情報を提供し、当該情報が主たる市場のウェブサイトにおいて公表される

 

 変更報告  空売りポジションに変更があれば必要  空売りポジションに0.1%以上 の変更があった場合に必要
 報告の方法  報告義務を発動した取引の相手先である証券会社を通じて、金融商品取引所に報告  報告義務を発動した取引の相手先である証券会社を通じて、主たる市場に報告
(ただし、当該証券会社が主たる市場のメンバーでない場合には、主たる市場のメンバーである証券会社を通じて提出)
 変更報告の記載事項

 空売りを行った者の商号及び所在地、銘柄コード、銘柄名、空売り残高割合の計算年月日、空売り残高割合、空売り残高数量、空売り残高売買単位数

 

 左記に加え、その直前に提出した報告書に記載された残高割合の計算年月日と空売り残高割合も記載
 空売り残高割合の計算方法  特に規定なし

 空売り残高割合の計算にあたっては、以下を前提とする

① 空売り残高数量は、取引日の取引終了時点における残高とする

② 発行済株式の総数は、空売り残高割合の計算年月日の総数とする

 

4.空売り規制の適用除外取引の変更

現行規制においても、一定の取引については空売り規制の適用除外とされていますが、改正はその範囲を拡充し、下記を追加しています。

  1. ETFの分割や会社の合併等にともなうETFのつなぎ売り
    • ① 指標連動型の投資信託の受益証券
    • ② 指標連動型の外国投資信託の受益証券・外国投資証券
    • ③ 指数連動型の受益証券発行信託の受益証券等
  2. 金融商品取引所とPTS間、又は複数のPTS間での裁定取引

さらに、適用除外取引に関する潜脱的行為を規制するための改正も行われました。

現在、決済未了の有価証券の売付けは適用除外取引の一つとされています。かかる適用除外を受け、空売りを行おうとする者が証券会社に対し取引所外で有価証券を売り付け、当該証券会社がこれを決済未了の有価証券の売付けとして金融商品取引所で売却するというプラクティスが見られるようになりました。この場合、①当該空売りを行う者の行為は取引所外での空売りとして空売り規制の適用対象外となり、②証券会社の売付けは上記の適用除外取引となり、いずれの取引にも空売り規制が適用されないこととなってしまいます。

そこで、かかる潜脱的な行為を防止するため、改正法の下では、証券会社が空売りを行おうとする者と「通じて」、当該空売りの受託(又は委託の取次ぎの引受け)に「代えて」証券を買い付け、決済未了の有価証券の売付けを市場で行い、当該買い付けた有価証券により当該売付けの決済を行う取引は、適用除外取引(決済未了有価証券の市場での売付け)から除かれることとなりました。すなわち、空売りを行おうとする者と証券会社間に通謀があると認められた場合には、場合により両者又はいずれかが空売りを行ったものとみなされる可能性があります。

本改正に関するお問い合わせ等は、ビンガム・マカッチェン・ムラセ外国法事務弁護士事務所 坂井・三村・相澤法律事務所(外国法共同事業)のInvestment Management Groupまでお願いいたします。

Contacts

If you have any questions or would like more information on the issues discussed in this LawFlash, please contact any of the following Morgan Lewis lawyers:

Wells-Christopher
Fuminaga-Tomoko

1現時点で該当銘柄が存在しない店頭売買有価証券市場については割愛しています。

2売買価格の決定方法が、顧客注文対当方式、売買気配提示方式、又は競売買方式であるPTSが対象となります。

3相場の下落局面においては、直前の価格以下での空売りが禁止されています(アップティック・ルール)

4重複上場の場合、毎月末日から起算して過去6か月間の当該有価証券の売買高が最も多い金融商品取引所(かかる有価証券が存在しない場合は、それ以外の有価証券の売買高が最も多い金融商品取引所)

5同じく時限的措置として2008年10月に導入されたNaked Short Sellingの禁止も、恒久化されました。

6空売り残高売買単位数が50超という水準は、現行と同様に適用されます。

7(%表示の)小数点以下第1位は切り捨てて計算します。

This article was originally published by Bingham McCutchen LLP.