第2次トランプ政権が行政府の手綱を握る中、企業は政府が貿易執行に再び焦点を当てることに備える必要があります。同政権はすでに、主要貿易相手国から輸入されるさまざまな品目に対する関税の拡大に着手しており、こうした関税の拡大は、単にコストの上昇を意味するだけではなく、輸入業者のコンプライアンスに対する監視の強化も意味します。その結果、関税に関連した「虚偽請求取締法(False Claims Act、 FCA)」による訴訟や、その他の取締りが強化される可能性があります。
ドナルド・トランプ米大統領は、2期目の就任からわずか数週間で、国際緊急経済権限法(International Emergency Economic Powers Act、IEEPA)の規定を利用し、国家安全保障、外交政策、経済に関連する国家緊急事態の宣言後、直ちに関税を課す大統領令を発令した初の大統領となりました。2025年2月1日、トランプ大統領は、メキシコ、カナダ、中国から米国への不法移民や麻薬の流入が急増しているとの主張に基づいて、メキシコ、カナダ、中国からの輸入品に関税を課しました。
カナダとメキシコに対する措置は、両国が協議を行う間の30日間、一時停止されていますが、中国に対する措置は2月4日に発効されました。この措置では、中国原産のほぼすべての輸入品に一律10%の関税が課されたほか、中国製品に対する「少額輸入(de minimis)」の適用も廃止され、より多くの輸入品が関税強化措置に晒されることになりました。その結果、港湾での大幅な遅延が発生し、翌日の2月5日には、「完全かつ迅速に関税収入を処理・徴収するための適切なシステムが整うまで」、少額輸入適用の廃止は一時停止されました。
この政権下での関税実施がこれで終わるとは考えにくく、トランプ大統領は最近、主要な米国の貿易相手国に対して、いわゆる「公正かつ互恵的な」貿易関税を課す計画を発表しました。また、近い将来、半導体や医薬品など、特定の種類の製品に対して更なる輸入関税を課す可能性を示唆しています。
さらに、行政措置にとどまらず、米国政権は立法府を通じて関税を導入する可能性もあります。選挙期間中、トランプ大統領は、国内での製造を促進するために法人税率の引き下げを提案しており、その税制改革による財源不足を、「調整(reconciliation)」と呼ばれる手続きによって、関税収入の拡大で補填することを示唆していました。
また、1974年通商法第201条および第301条、ならびに1962年通商拡大法第232条などを含むその他の立法手段は、不公正な貿易慣行や国家安全保障上の懸念に対して、特定の産業、製品、または原産国に焦点を当てた是正措置を講じることを可能にし、これらの条項は、トランプ大統領の第1期政権中にも活用されました。関税を課すために米国政権が利用可能なさまざまな手段について、詳しくは弊所が以前発行しているLawFlashをご参照ください。
FCAは連邦政府に対する詐欺行為を防止するために使用されてきました。FCAは通常、政府との契約業者や、メディケア・メディケイドの請求を行うヘルスケア産業関係者に影響を与える法令とみなされていますが、最近では、政府契約やヘルスケア産業と関係が一切ない輸入業者に対しても、通関違反を理由に適用されるケースが増えています。
通関法違反を根拠とするFCA訴訟は、FCA第3729条(a)(1)(G)項、いわゆる「リバース・フォルス・クレーム(逆虚偽請求)」条項に基づいて提起されます。これは、政府への支払い義務を「故意に」回避することを禁じるもので、この「故意に」という基準は広く定義されており、実際の知識だけでなく、意図的な無知や、情報の真偽に対する無謀な無視も含まれます。つまり、詐欺の明確な意図は必要とされません。
FCAの最もユニークな側面の一つは、「内部告発者(whistleblowers)」、すなわち、クイ・タム告発者(qui tam relators)が、アメリカ合衆国を代表してFCA違反を申し立て、訴訟を起こすことができる点です。これらの告発者は、回収された資金の一部または報奨金を受け取るため、告発者とその弁護士には強い経済的インセンティブが生じます。実際、米国司法省(Department of Justice、DOJ)のFCA訴訟事件の大半は、告発者が主導した事件で占められています。詳細については、DOJの2024会計年度FCA統計に関するLawFlashをご覧ください。
伝統的に、クイ・タム告発者は企業の現職または元従業員などの内部関係者が多くを占めていましたが、現在では、データからFCA違反を探し出す「プロ」の告発者や、競合他社による提起も見られるようになっています。特に通関関連のFCA請求においては、こうした競合による動きが顕著です。
告発者によって提起されたFCA訴訟は、DOJが訴えの内容を調査し、訴訟に介入するかどうかを判断する時間を確保するため、密封下で提出されます。密封期間中、またはDOJが直接訴訟を開始する場合には、民事調査請求(Civil Investigative Demand, CID)や省庁による召喚状の発行などの手段が用いられ、そのような請求や召喚状の受け取りが企業にとってFCA違反の初期兆候となることがあります。
国際貿易の文脈では、FCA違反の容疑はしばしば以下のカテゴリーに分類されます:(1) 輸入製品の過小評価、(2)輸入製品の分類または種類の虚偽表示、(3)輸入製品の原産国の虚偽表示。
FCAに基づく責任が認定された場合の影響には、トリプル(3倍)賠償や請求ごとの金銭的罰則が含まれるため、裁判前に却下もしくは取り下げられなかったFCA訴訟の多くは、和解によって解決されることが一般的です。通関関連の文脈でも、FCA違反の疑いにより、エンジニアリング会社、製造業者、アパレル会社、その他の輸入販売業者によって、数百万ドル規模の和解が行われた例が多数あります。
FCAのクイ・タム条項の合憲性には現在再び異議が唱えられており(詳細は以前のLawFlashをご参照ください。)、通関関連のFCA請求に対する裁判所の管轄権も近年再び議論されています(弊所のLawFlashをご参照ください)。しかし、これらの法的争点があるにもかかわらず、FCA違反の疑いに対する告発者やDOJの取り締まりの動きが弱まることはないと見られています。また、ここ数年で通関関連のFCA事件が増加しており、今後も政権による関税強化の動きにより、この分野でのFCA活動がさらに活発になると予想されます。
FCAに関する疑いへの対応に加え、関税の拡大は輸入業者にその他執行リスクをもたらす可能性があります。
輸入業者は、米国税関・国境取締局(CBP)による輸入品の詳細な審査を受けることになり、輸入品の通関データが正確であるかどうかを確認される可能性があります。CBPは、輸入業者に対して、CF-28情報提供依頼書やCF-29処置通知を通じて、追加情報を求めることがあります。
1930年関税法第592条(19 USC 第1592条)は、重大な省略、虚偽かつ重要な文書又は電子データによって商品を輸入すること、又は輸入しようとすることを禁止しています。この法律はCBPに、詐欺、重大な過失、または過失による税関関連法違反に対して罰則を課す権限を与えています。輸入者は、政府が関税またはその他の収入を失わない場合であっても、第592条に基づく責任を問われる可能性があり、損失が発生する違反は、その損失の最大8倍の罰則金が科される可能性があります。
輸入業者は、CBPのいかなる照会にも対応し、CBPの決定に異議を申し立てる方法(清算の有無によって異なる)や、CBPが課した罰則を軽減したり、救済を受けたりする方法があることを理解することが重要です。
また、税関違反を刑事罰の対象とする連邦法も数多くあり、罰金から禁固刑まで、以下のような罰則があります:
これらの様々な刑法は、輸入業者を捜査し起訴するための広範なツールボックスを政府に与えています。
米政権の貿易通商に関わる取締りの積極的な姿勢は一貫しており、関税の拡大と監視の強化が目前に迫っています。商品や原材料を輸入する企業は、CBPやDOJによる監視の強化や、クワイ・タム(qui tam)告発者による活動の活発化を予期しておく必要があり、そのようなリスクを軽減し、自社を防御する方法を検討しておく必要があります。このテーマに関する詳細については、最近の弊所ウェビナーをご参照ください。また、資料についてはケイト・コスター (Kate Koster)までご請求ください。
米政権の方針と優先事項についての情報は、弊所リソースセンターをご覧ください。また、トランプ-バンス政権に関連するプログラム、ガイダンス、最新の法律やビジネスの動向に関する最新情報を得るため、是非、弊所のメーリングリストにご登録ください。
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