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EMIRのポートフォリオ照合等の日本企業への影響について

September 25, 2013

1. はじめに

本稿は、EMIR(the European Market Infrastructures Regulation=欧州市場インフラ規制)において定められた諸規制のうち、2013年9月15日に施行されたポートフォリオ照合(Portfolio Reconciliation)等の義務が日本企業に与える影響を概観するものです。

2. EMIRとは

EMIRとは、欧州議会によって制定された店頭デリバティブ市場規制を言い、EEA(欧州経済領域)に影響を与えうる店頭デリバティブ取引の透明性を高め、システミックリスクを減少させることを目的としています。

3. EMIRの適用対象となる法人について

EMIRは、EEA内で設立されたあらゆる法人に対して直接適用されます。すなわち、①EEA内で設立された金融機関や投資運用会社等であるfinancial counterparty(“FC”)、②EEA内で設立されたFC以外の法人であるnon-financial counterparty(“NFC”)に適用されます。NFCは、さらに、②-(i) EMIRによってクリアリング義務を負う法人(“NFC+”)と、②-(ii) それ以外の法人(“NFC-”)に分類され、前者は後者よりも厳しい規制を受けます。そして、FCの域外支店(例えば東京支店)はFCと同一企業として扱われ(つまりFCにあたり)ます。

NFC+とNFC-との区別については、NFCの店頭デリバティブ取引の想定元本合計額が下記の閾値(clearing threshold)のいずれかを超えている場合、NFC+に該当します。

  • クレジット・デリバティブ取引:10億EUR
  • エクィティ・デリバティブ取引:10億EUR
  • 金利デリバティブ取引:30億EUR
  • 為替デリバティブ取引:30億EUR
  • コモディティ・デリバティブ取引及びその他の店頭デリバティブ取引:30億EUR

EMIRはEEA域外(例えば日本)で設立された法人(third country entity)(“域外法人”)には直接適用されませんが、域外法人がFCと店頭デリバティブ取引を行う場合には間接的に影響を受けることとなります。なぜなら、FCは域外法人と取引を行う場合にもEMIRに定められた規制を遵守することが求められているからです。したがって、日本企業のような域外法人についても、欧州のFCと取引を行うためには、EMIRの一定の規制を遵守する必要があることとなります。

4.2013年9月15日に施行された規制について

EMIRには、クリアリング義務(clearing obligation)、リスク軽減措置(risk mitigation techniques)、報告義務(reporting obligation)等の規制がありますが、一部の規制は既に施行済みであり、今後も順次施行されていきます。
2013年9月15日に施行された規制のうち、日本企業との取引についても対象となり得るものとしては、上記リスク軽減措置に関する(1) ポートフォリオ照合(portfolio reconciliation)、(2) ポートフォリオ・コンプレッション(portfolio compression)、(3) ディスピュート解決(dispute resolution)があります。以下、ポートフォリオ照合を中心に説明します。

(1)  ポートフォリオ照合(portfolio reconciliation)

店頭デリバティブ取引を締結するに先立ち、FCは相手方NFCとの間で、取引の照合(ポートフォリオ照合)を行う旨の取決めを書面で行わなければなりません。そして、この取決めに従い、一定の頻度で、ポートフォリオ照合を行うことが必要です。ポートフォリオ照合の目的は、両当事者における取引の記録が同一であり、取引が正しく把握されているか、言い換えれば、店頭デリバティブ取引の主要な条件の認識に何らかの相違がないかを早期に確認することにあります。上記2のとおり、日本企業等の域外法人との取引についても、ポートフォリオ照合の対象となります。

上記取り決めについては、当事者間で相対で合意することが可能ですが、ISDAのプロトコル(2013 EMIR Portfolio Reconciliation, Dispute Resolution and Disclosure Protocol)を両当事者が批准する方法で行うこともできます。

ポートフォリオ照合を行う際には、各店頭デリバティブ取引の主要な取引条件を確認しなければならず、必ず各取引の時価評価額(marked-to-market valuation、なお、時価評価が困難な場合には、信頼できる慎重なmark-to-model valuation)が含まれる必要があります。なお、ポートフォリオ照合を(顧客側の費用負担なしで)Tri-Optima社等の一定の第三者機関に委託することを合意することもあり得ます。

ポートフォリオ照合の対象となる取引は、2013年9月15日時点で残高のある取引及びそれ以降に行われる取引です。
また、相手方の属性及び取引数に応じて、少なくとも以下の頻度で行うことが必要です。域外法人との取引についても、3で述べたNFC+とNFC-の区分に従い、(いわば、あたかもNFC+又はNFC-との取引であるかのごとく、)少なくとも以下の頻度で行うことが必要になります。

  • FCとNFC+との間の取引
    残高が500件以上の場合:毎営業日
    残高が51-499件の場合:週次
    残高が50件以下の場合:四半期毎
  • FCとNFC-との間の取引
    残高が101件以上の場合:四半期毎
    残高が100件以下の場合:年1回

(2)  ポートフォリオ・コンプレッション(portfolio compression)

相手方との間で(清算集中されていない)500件以上の店頭デリバティブ取引を有している場合、信用リスク軽減のために、少なくとも年2回残存取引数を減少させるためのポートフォリオ・コンプレッション(残高圧縮)について検討する手続を導入する必要があります

(3) ディスピュート解決(dispute resolution)

FCと相手方NFCとの間の店頭デリバティブ取引について相互の認識及び評価等の齟齬がある場合における当該齟齬の特定、記録、及びモニタリング並びにその解決方法に関して、両当事者間で予め詳細な手続を合意しておく必要があります。

お問い合わせ先:
リサ・ヴァレントーヴィッシュ外国法事務弁護士(ニューヨーク州・コネティカット州)
河合健弁護士

Contacts

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Valentovish-Lisa
Kawai-Ken

This article was originally published by Bingham McCutchen LLP.