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製薬会社間の特許紛争で和解(Pay-for-Delay Settlement)をする際には、 欧米で競争法違反として摘発されるリスクを十分に考慮する必要がある

June 27, 2013

【米国最高裁判決】

(判決の内容)
アメリカ合衆国最高裁判所は、2013年6月18日、連邦取引委員会(「FTC」)がActavis, Inc.他を相手として、いわゆるPay-for-delay Settlementが反トラスト法(FTC法5条)違反であることの確認と当該合意の恒久的差止めを求めた民事訴訟(本件訴訟)において、和解の効果が特許の排他権の範囲にとどまる限り独占禁止法違反の責任は生じないとして独占禁止法違反を認めなかった控訴審判決(第11巡回区控訴裁判所)を破棄し、Pay-for-delay Settlementが独占禁止法上、違法となり得る可能性を認めた上で、違法か否かは「合理性の基準」(Rule of Reason)によって判断されるべきであるとの判断を示しました。

(背景と事件の概要)
Pay-for-delay Settlementとは、先発薬メーカーと後発薬(ジェネリック)メーカーとの間の特許紛争で、後発薬メーカーが一定期間後発医薬品の上市を遅らせる見返りに、先発薬メーカーから金銭支払い(Reverse Payment=逆支払い)を受ける旨の和解をすることを言います。FTCは、ここ数年、このような和解により、安い後発医薬品の上市を遅らせることで先発薬の独占利潤を山分けすることは、反トラスト法(FTC法5条)違反であるとして、積極的に摘発を行ってきました。本件訴訟も和解の当事者である先発薬メーカーと後発薬メーカーに対してFTCが起こした反トラスト法違反訴訟の一つです。

本件訴訟で、FTCは、「逆支払を伴う和解は違法と推定される」との考え方(「違法推定論」)に基づいて反トラスト法違反を主張しましたが、第1審で敗訴しました。FTCの控訴を受けた第11巡回区控訴裁判所は、「和解の効果が、特許権が潜在的に有している排他権の範囲にとどまる限り、反トラスト法上の責任を負わない」という考え方(「特許の範囲論」)を採用し、ここでもFTCが敗訴しました。

FTCの上告を受理した最高裁判所は、特許の範囲論に基づく第11巡回区控訴裁判所の判断を覆しましたが、他方で、FTCの違法推定論も採用することなく、Pay-for-delay Settlementの違法性については、伝統的な「合理性の基準」、すなわち競争促進効果と競争阻害効果を比較衡量することによって判断すべきであるとし、この基準に沿って再審理をさせるために、事件を差し戻しました。この破棄・差し戻し判決を受けて、今後、問題の和解条項が合理性の原則に照らして合法か違法かについて、さらなる審理が行われ、裁判所の判断が下されることになります。

(判決の影響)
今回の最高裁判所の判断は、Pay-for-delay Settlementについて、FTCが主張した違法推定論を採らず、違法性判断の基準として伝統的な「合理性の原則」を採用しており、Pay-for-delay Settlementそのものを完全に否定したわけではありません。しかし、今後、このような和解については、「合理性の基準」に基いて違法性の有無が判断されるため、競争促進効果や競争阻害効果について膨大な証拠に基づく主張・立証を行うことが必要となります。とりわけ、被告となる製薬会社にとっては、一旦、反トラスト法違反の訴訟が起こされると、その最終的な勝敗如何にかかわらず、訴訟コストの負担が重くのしかかることになります。

なお、法廷意見は、問題とされた和解がハッチ・ワックスマン法(Hatch-Waxman Act)の枠組の下で先発薬メーカーが後発薬メーカーに対して提起した特許権侵害訴訟における和解であったことに関連して、同法の下で生じる様々な利害をどう考えるかについて、相当の頁数を割いています。この最高裁判決の射程がどこまで及ぶかは未知数ですが、法廷意見が「特許権の排他権の範囲内にとどまる和解である限り、独占禁止法の問題は生じない」との考え方を排斥し、特許権が関係していても「合理性の原則」によって違法性の有無を判断すべきであるとしたことが注目されます(この点については、3名の裁判官の反対意見があります。)。したがって、今後、特許紛争に関連して和解をする場合には、和解後に反トラスト法違反を追及されるリスク及びコストも視野に入れた経営判断を行うことがますます重要になるでしょう。

本件についての、当事務所米国オフィスの弁護士による解説は、下記リンクをご参照下さい。
http://www.bingham.com/Alerts/2013/06/SC-Rule-of-Reason-Governs-Reverse-Payment-Agreements

【EUの事例】
EUにおいては、Pay-for-delay SettlementがEU機能条約101条に違反するとして摘発される例が見られ、2013年6月19日には欧州委員会によってデンマークの先発薬メーカーと、合意をした後発薬メーカーの双方に対して、合計1億4600万ユーロ(約187億円)の課徴金が課されています。欧州委員会のプレスリリースは、下記リンクからご覧いただけます。
http://europa.eu/rapid/press-release_IP-13-563_en.htm

*本資料は、一般的な情報であり、法的助言を提供することを目的としていません。

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This article was originally published by Bingham McCutchen LLP.